「病を有する患者さんを診る」ことの難しさを知った朴澤先生。手探りの在宅医療/訪問診療のなかで、「いかに責任性・継続性を確保するか」という課題を見つけたと言います。難しい事情を抱える離島医療だからこその工夫や取り組みと一緒にお伝えします。

(所属/役職など本記事内の情報はインタビュー時のものです)

訪問診療で気を付けていること、工夫されていること

離島では長期間定住して働く医療スタッフは少数であり、応援医の先生方が短期間で交代し、診療を行っています。同じ医師が長期間継続して診療を行うことは、医療を受ける立場から最も望まれる形ですが、長期間離島医療に従事することは資格の取得・維持や家族関係などの点でなかなか敷居が高く、短期の応援・交代という形で離島医療は成り立っているのが現状です。

特に訪問診療では医師の交代が反復する中で継続性・責任性が希薄化し、その結果診療の質にも悪影響を及ぼす可能性が病院・診療所の両者において指摘されてきました。

そこで2013年12月より瀬戸内徳洲会病院に電子カルテが導入され、2014年2月には加計呂麻徳洲会診療所と共通の電子カルテになったことを契機に、定期的に電子カルテ上でサマリーを記載し、スタッフ医師がサマリーとカルテ記載を確認することにしました。

具体的には、【1】疾病に関するサマリー(医学的問題点の抽出と評価、今後の方針を記載)と【2】患者背景に関するサマリー(家族構成、生活社会歴、ADL、IADL、御本人・御家族の思い、健康への理解、急変時の方針などを記載)の2つを記載するようにしています。

訪問診療に行ううえでは、あくまでも仕事であること、医師として訪問し診療を行っていることを忘れないように、いつも心がけています。心を通わせ、良好な人間関係を築くことは勿論重要ですが、ただ患者さんの家に行ってお話をするだけでは、いわゆる家庭訪問と一緒で「訪問診療」とは言えないと考えています。

またせっかく普段生活している環境に行くからには、その方の生活状況、特にその患者さんの療養・治療および安全な生活にどのようなリスクがあるのかを抽出し、考察するための情報を得るのが、重要と考えています。

実際の診療においては、患者さんおよび御家族に、在宅が困難になったり受診・入院を希望されたりする場合は、いつでも病院・診療所で対応できることを伝えるよう、気をつけています。

特に熱心な御家族ほど、「最期まで家で看てあげられなかった」と時に自分たちを責めてしまうことがあり、そうなると、患者さん・御家族ともに疲弊し、誰も幸せにならない結果になってしまいます。

同世代の先生へのメッセージ

大病院での勤務から離島への移動を機に在宅医療、訪問診療を始めた初心者ですので、同年代の方に在宅医療・訪問診療の魅力を伝えられるほどの経験・知識はまだありません。

ただし、大病院の勤務経験しかなかった私は在宅医療・訪問診療を通じ、これまで「患者さんの病気」を診てきたのが「病をもった患者さん」を診るという意識・考え方を持てるようになりました。また、患者さんに在宅医療という選択肢を、自信を持って提示できるようになりました。

幅広い分野を急性期から慢性期まで、全力で目の前の患者・家族・そして地域にとってベストな選択を考え、行動する – 医療の原点とも言える行為を実践する毎日は、忙しくも充実し、医者冥利に尽きます。離島にいるデメリットは最小限に、離島ならではの魅力を体現しながら、世界標準の医療を実践していきたいと考えています。

総合診療に興味のある方のみならず将来専門科に進む方、病院で働く方にとっても非常によい経験になると思いますので、機会があればいかがでしょうか。
このページを読んで下さった皆様、ぜひ一緒に働きましょう。