開業物語

Dr.カン:みどり訪問クリニックで院長を務めている、姜 琪鎬(カン キホ)です。2012年4月に開業して2年半が経った時点で、この間に、クリニック開業という枠組みを超えて、マネジメント全般で、内緒にしておくのは勿体ないほどの知見を得ることが出来ましたので、少しでも多くの方にシェアできればと思っています。良かったら聞いてやってくださいね。よろしくお願いします。

赤井 角:先生、早速ですが、開業に際してコンサルタントの手を借りなかったのはなぜでしょう?コンサルタントに支払う報酬が高額だったからですか??

Dr.カン:実は、彼らに支払う報酬よりも他の理由で手を借りなかったんだよね。開業する場所探しや、スタッフの採用、そして煩雑な開業手続きなどを代行してくれるなら正当な報酬額だと思いますよ。彼らもこれで食べているんだし。私が気になったのは「キャッシュベースでの累積黒字化」までの期間が長かったことですね。

赤井 角:「キャッシュベース」??「累積黒字化」??なんですか、それ・・・。

キャッシュベースとは?

Dr.カン:「キャッシュベース」とは、簡単に言うと「手元にある現金や預貯金」に注意して考えるということです。診療報酬の支払いの仕組みでは、現金が入ってくるのが早くても2か月後になります。今月診た患者さんの診療報酬は再来月にしかもらえないのです。

その間、診療に使った薬剤や材料やスタッフの人件費、家賃などは収益に関わらず支払わなくてはいけませんよね。手元に現金や預貯金、つまりキャッシュがないと診療すらできなくなるのです。

赤井 角:特に開業したばかりだとオフィスの敷金礼金払ったり、家具揃えたり、訪問用の車買ったりと・・・。大量にお金が出ていきますもんね。手元にいくら残っているのか?気を付けてないといけませんね。

Dr.カン:そうそう。当初は毎月お金が出ていく一方で、恐怖だったね(失笑)。いくらお金があれば足りるんだろうか?不安との戦いでしたよ。みどり訪問クリニックの場合は、マイナス997万円まで行きました。あ、私の生活費は含まれていません(涙)。

無駄なモノにはお金をかけずに締めていったんですがね。ちなみに、一般的なコンサルタントが提案するメニューがここにあるのですが、これを全部やっていたら倍以上の手元資金が必要になるわけです。

赤井 角:うわー。なんでこんなに無駄なモノが多いのですか?悪いコンサルタントの一例では??

Dr.カン:いや、一概に悪いとは言えないね。医療業界に限った話ではないのですが、コンサルタントはクライアントからもらう報酬の他にも収入源があるんですよ。

赤井 角:え????

Dr.カン:例えば、メニューの中に「情報システム構築」ってありますよね。実際にコンサルタントがシステムを作れると思いますか?

赤井 角:無理でしょ(苦笑)。システム屋さんに頼むと思います。

Dr.カン:そうなんですよ。実際にサービスや物品を提供するのは業者さんであって、コンサルタントではない。コンサルタントはある意味営業マンです。業者さんに代わって受注を取ってきて、その分手数料を徴収するのです。

赤井 角:そっか、それでこんなにもメニューが多いんですか(驚)!売り物が多い方が手数料をもらえる可能性が広がりますもんね!

Dr.カン:はい。でも誤解して欲しくないのが、決して「ぼったくり」ではないということです。一部の悪徳コンサルタントを除いてね。彼らは業者さんの販売促進にかかる費用の中から手数料をもらっているので、クライアントが直接業者さんに依頼しても値段はたいして変わらない場合が多いのです。

ただ、コンサルタントの提案を鵜呑みにすると、余計なモノまで買ってしまうことになる。そこに気を付けないといけないのです。あとは、なにも業者さんに頼まなくても創意工夫でなんとかなることも多いですね。それが在宅医療、訪問診療クリニックの醍醐味です。

赤井 角:創意工夫ですか・・・。どうやるんですか?「米国でMBA(経営学修士)を取得したり、一般企業で役員を務めたりしないとできない」なんてことはないですよね???

Dr.カン:はは(笑)。大丈夫ですよ。みどり訪問クリニックでやったことを全て公開しますから。読んでいただき、それに自分なりのアイデアを少し足していただければ十分だと思いますよ。

赤井 角:そうですか・・・。続きを聞きたいところですが、家の金魚に餌をやる時間なので、この辺で失礼します・・・。皆さん次回をお楽しみに!!

Dr.カン:え・・・。

第1話のまとめのヒトコト

「開業準備の段階でキャッシュベースをイメージすること!」